6月から7月に掛けて現代美術家cobird(コバード)による個展『マ グ シ ョ ッ ト』が開催された。彼は、印刷した紙などを縦横の短冊状にカッターで切り刻み、手作業で織物の組織のように1本ずつ交互に差込みながら形成されるコラージュ作品を主に発表を続けている作家。
この独特の制作スタイルは、彼のルーツのでもあるアパレルメーカーで勤務して得た布帛·編み物の基礎、生地組織への造詣、そして彼が強く影響を受けたストリートカルチャー、特にヒップホップ、ラップミュージックのサンプリング手法、その両方が合わさり1つに結びつき生まれたもの。本展示は、その技術を昇華し制作されたcobirdのシグネチャーでもあるマグショット(逮捕写真)を使用したシリーズと、新たに始動した実際に撮影した肖像写真を使用した『マグショット·プロジェクト』の作品が、約60点並ぶ圧巻の内容だった。
今月開催される名古屋展の前に、東京展を終えた彼のインタビューから、その作品スタイルを紐解いていく。
マグショット作品はキュビズムへのオマージュであり、サンプリングのようにコラージュしたスタイル

---ギャラリー月極での個展『マ グ シ ョ ッ ト』、その展示やSNSを通して発信した『マグショット・プロジェクト』お疲れ様でした。まずは個展を終えての感想を聞かせてください。
cobird:すごく良い結果だったと考えています。来場者もいつもより多かったですし、コミュニケーションをとる機会も増えたので。ずっと応援してくれていた友人やファンの方が見に来てくれて、非情に嬉しい個展となりました。
---展示の内容を『マ グ シ ョ ッ ト』にした理由を教えてください。
cobird:犯罪者が逮捕されたときの写真を使用した作品は、以前から作っていたんです。そんな中、去年から様々な作品を披露する機会があって、コレクターや友人と話していて、レジンを使用した作品が好評だったんです。そしてテストピースのような形でレジンを使用した作品をマグショット写真で製作したところ、それを友人のアーティストが購入してくれたんです。ずっと見てくれていた人だったこともあり、そこに手応えを感じました。月極での展示は決まっていたので、その日をキッカケに個展での展示するために作り続けたんです。

---マグショット(逮捕写真)を使用したシリーズ、実際に撮影した肖像写真を使用した『マグショット・プロジェクト』を合わせた合計60作品で埋め尽くされた壁の展示は圧巻でした。
cobird:月極での見せ方を考えてたときに、作品の数で勝負をしたいと思ったんです。
---数にこだわった理由は?
cobird:今回の個展は、キュビズム※1に対するオマージュという表現でもあり、それを伝えるためにキャンバスサイズとして最も強固に見える演出としてレジンを使用し、絵画として一般的なサイズの中からSMサイズを選びました。小さいサイズなので、数で見せる方法が最善だと判断したんです。
※1…20世紀初頭にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって生み出された芸術運動・表現。それまでの具象絵画が一つの視点に基づいて描かれていたのに対し、様々な角度から見た物の形を1つの画面に収める手法。
---今回の個展で披露した『マグショット・プロジェクト』についてもお聞かせください。実際に撮影して、その肖像写真を用いて製作するのと、既存のマグショット作品とで違いはありましたか?
cobird:そうですね。マグショット(逮捕写真)って匿名性があり、パブリックドメインで勝手に使用できる。そしてどこの誰だかわからないし、何があったかもわからないアノニマスな写真だと思うんです。逮捕された人が、どんな犯罪を犯した人なのかとか、そういうストーリーにスポットを当てるわけでもなく、正面の写真と横顔の写真を同時にヒップホップでいうサンプリングのようにコラージュできるという点が、僕にとって都合が良かったんです。無慈悲、感情を持つことも入れ込むこともなく、ただ決められたルールに非常に徹して製作していくんです。そこが好きな部分でもあったんです。でも、『マグショット・プロジェクト』に関しては、生きている人間を実際に写真を撮って、作品にしてたもの。それが、今までと違ってどんな感じに見えるのかという興味を持ってはじめたプロジェクトなんです。
---実験的にスタートしたプロジェクトだったんですね。
cobird:はい。実際にスタートしてからは、サンプリングするネタから弄れるというところが、マグショット(逮捕写真)で作っている部分との違いでした。そこがすごく面白くて。
---今回、撮影させて頂いた方々は、今の東京ストリートで活躍している人が多かったようにも感じます。どのようにラインナップされたのでしょうか?
cobird:そこは、マグショット(逮捕写真)で製作している時と同じで、顔のフォルムの美しさや、個性がある顔が好きで選ばせて頂きました。その人のバックボーンなどはあまり気にしてはいないですね。とはいえ、先日ライブを見たバンド『鋭児』の音楽とパフォーマンスに惚れて御厨響一くんで作品を作ってみたいと思ったり、撮影しているときにコミュニケーションをとったアーティストの方々への思い入れが強くなったり、そこもマグショット(逮捕写真)での製作との違いでした。
---正面と横顔の2つの素材で構成するスタイルは全て同じなんですか?
cobird:マグショット作品に関しては、ほとんどの作品がそうですね。人物の正面と横顔のポートレートを用いて、縦横の短冊状に切って、布のように組み合わせるウィービングという手法を用いて、1つのコラージュ作品を作っています。
---このスタイルになったキッカケはなんだったんですか?
cobird:環ROYさんのジャケットの制作したときに、デザイナーである『Sasquatchfabrix.』の横山さんが、マグショット作品を見て連絡をくれたんです。そのときに「2枚掛けのイメージもあるじゃん」って言われて。それで気付かされたんだと思います。もちろん、2つ素材ではない作品も多くありますが、マグショット作品に関しては2枚のビジュアルですね。3つ素材を入れたときに、ぐちゃぐちゃになってしまうことが多いんです。特にマグショット作品のように人の顔を扱うときは。サンプリングアートというのは、オリジナルをどう変化させるのかも重要であると思うんです。動きとかフォルムがわからなくならないようにミックスしていくことが僕の作品の特徴の一つだと思います。
ヒップホップとアパレルへの 造詣から生まれた作品スタイル

---マグショット(逮捕写真)は、ネットから探した素材だと思います。そういう作品のネタやインスピレーションは、ネットから得ることが多いのでしょうか?
cobird:ネットの情報を作品のネタとして使用することが多いです。InstagramやPinterest、YouTubeなどを見るのも好きだし、世界中に浮遊するなんだかよくわからない画像からインスピレーションを得ることは多いかもしれないですね。マグショット(逮捕写真)も、ネットの有名な怪談で『師匠シリーズ』のひとつから着想を得ていて、1人の人の顔をミックスするのに、都合が良かったモチーフでした。
---過去作も様々なネットの背景を感じますよね。
cobird:そうですね。例えば、アニメのコマを使った作品、Wikipediaの英語と日本語のページを使用した作品、映画やボクシングの試合映像を使った作品などもあります。これらに関しては、マグショット作品のように必ずしも2枚掛けというわけではないですが、サンプリングとしての原型もわかるようにコラージュしていくという部分は統一されていると思います。ウィービングという手法もそうですが、どのようにサンプリングしていくかにも、僕の個性が出ているかと考えています。

---cobirdさんの作品は、サンプリングがキーワードになっていますが、これはヒップホップ音楽が根元にあるのでしょうか?
cobird:音楽のルーツでいうとヒップホップですが、最初からヒップホップのサンプリングを意識していた訳ではないんです。もともとは、美術と音楽は別物だと考えていて、他のジャンルから影響を受けているなんて思ってもいなかったですね。環ROYさんのジャケットの制作の時に『Sasquatchfabrix.』の横山さんに言われたことをキッカケに、自分がただモチーフをいかにカッコ良く美しくするかという、ヒップホップでいうサンプリングマナーのようなものを意識している自分に気がついたんです。自分の作品をわかりやすくみんなに伝えるときに、サンプリングという言葉はしっくりきた感じですね。

---もう一つcobirdの作品の特徴であるウィービングという手法についても教えてください。
cobird:ウィービングという手法は、タテ糸と緯糸が織り込まれる布帛組織のように作られているように、素材を組み合わせて作ることなんですが、これは前職がアパレル会社に勤めてたところから来ているんです。またウィービングの美術作品で有名なディン・Q・レの作品を観た時、今まで得た布帛・編み物の基礎、生地組織の知識を基盤にすれば、より細かい作品を作れるなって思ったこともキッカケなんです。だから、ウィービングをはじめた頃は、わざと細かくすることに意識していましたね。それに、日本人の手の器用さもキャラクターひとつだっと思うので。
---今後、どのような作家になっていきたいと考えていますか?
cobird:アパレルに勤務していた頃に、いろいろ考え過ぎてしまって、失敗したことも多かったんです。だから、「こう売れたい」とか「ああやって売れたい」とか、そういう考えを持つことは危険かなって思うんです。美術作家になってからは、できる限り計画とか計算をしないで素の自分でいれるように心掛けています。

---今後の活動についても教えてください。
cobird:9月16日(土)から『マ グ シ ョ ッ ト』の名古屋展がスタートします。他の場所での巡回展や展示も少しずつ話しを進めています。それに合わせて『マグショット・プロジェクト』も続けていければと考えています。そのあとは、マグショット作品に限らずもう少し違ったサイズのレジンの作品を作れたらと考えています。あと、チャレンジしたいことでいえば、以前藤沢市アートスペースで2メートルの作品を作ったのですが、その3倍ぐらいのサイズの作品の構想を、ずっと練っています。
cobird コバード
1977年、神奈川県生まれ。玉川大学文学部デザイン科卒業。その後アパレルメーカーにて、デザイン業務に従事しながら、布帛、編み物の基礎を学ぶ。この生地組織への造詣と、彼が強く影響を受けたストリートカルチャー、特にヒップホップ、ラップミュージックのサンプリング手法が活動のベースとなっている。具体的には印刷した紙などを縦横の短冊状にカッターで切り刻み、手作業で織物の組織のように 1 本づつ交互に差込まれる事で、コラージュ作品として形成している。現在は、東京を中心に個展やグループ展で作品を発表、またファッションブランドやミュージシャンへ、アートワークを提供するなど様々なシーンでのクリエイションも行っている。更に国内外のアーティスト・イン・レジデンス、AIR Onomichi(日本、広島)高雄市文化局主催 Pier2AIR(台湾、高雄) Beirut Art Residency(レバノン、ベイルート)の参加経験を活かし、現在山梨県西湖にて AIR"SAIKONEON" の運営と管理に関わっている。主な展示歴に、「時と場合」ギャラリー月極 ( 東京 ) 2018、「変容のありか 流れる時間の捉え方」藤沢市アートスペース ( 神奈川 )2020、その他の参加プロジェクトに「NINJA TUNE × Sasquatchfabrix.」カプセル コレクション、T シャツデザインに作品提供 2021、「マ グ シ ョ ッ ト」ギャラリー月極 ( 東京 )2022 など。
HP:www.cobirdweb.com
IG:cobird1432
Photo / Text / Edit:Takao_okb

UNEVEN HUB STORE / Nagoya
「想像を超える、人とモノのハブ体験」をテーマに、広々としたワンフロア(230坪/760㎡)を展開。周回可能な放射状レイアウトにて構成された小規模ショッピングモールのような発信拠点です。愛知県名古屋市西区天塚町という穏やかなロケーションにて、ファッションのセレクトショップ「UNEVEN HUB STORE」を起点とし、デザインと生活雑貨を取り扱う「Dhal Homes」、スペシャリティーコーヒーと焼き菓子を提供する「awai」、Swimsuit Departmentが展開するアンティークオブジェクトショップ「BATHHOUSE nagoya」、大小二つのイベントスペースとキッチンスペースを集約。多種多様な人やモノ、コンテンツが重なり合い、刺激し合うことで、想像を超えた体験を提供いたします。