「おすすめの面白いお店」と聞くと、どうしても似たような顔ぶれが並びがち。けれど、街をよくよく見渡せば、もっと静かに、もっと深く、店主の“好き”という熱量がにじみ出た場所が存在します。そんな人やそれにまつわる場所を、しがらみ抜きにして紹介していくのが、この偏愛的ローカルシティガイド。類は友を呼ぶというけれど、その独特なスタンスの向こうに、今どのような風景が見えているのか?カジュアルなインタビュー形式でコミュニケーションする不定期企画。
その人ならではの“好き”がにじみ出た場所って、やっぱり面白い!!
「Manila Books&Gift」
Zineが好きすぎて店を開き、雨の日も風の日も店も守る。そんな偏愛的(変態的?)なスタンスを貫いているのが、新栄の「Manila Books&Gift」だ。お店を始めてもうすぐ5年。そもそもZineの魅力って?ハブストアでのイベント “THE PRINTER’S ROOM” を一週間後に控え、Zineという小さなメディアに込められた異常な熱量を思い切り語ってもらいました!!


--- 無茶振りオファーを受けて頂いてありがとうございます。ついに来ましたね!表舞台に打って出るタイミングが。イベントも控えているのでバシッと宜しくお願いします。
初めからハードルぐんぐん上げるの良くないですよ(笑)。大丈夫かな、、、心配になってきました。とにかく、Zineの素晴らしさが少しでも世に広まれば嬉しく想います。何卒お手柔らかに宜しくお願いします。
--- 少し心に引っかかっていることがあって。お店を出す前に結構ネガティブなこといっぱい伝えてたよね。商売舐めるな的な(笑)。ダサい大人的なこと言ってごめんなさい。
ええっ!突然何の謝罪?今、イベントに向けて良い流れでジョインしてるじゃないですか。早くインタビューを進めてくださいよ。
--- では早速。桂井くんのざっとした経歴やストーリーを教えてください。
アメリカ生まれ春日井育ち。現役の看護師でもあります。お店を始める前は会社勤めしながら長期休暇で海外を旅する“サラリーマンバックパッカー”を10年程続けていました。アートの教育は受けたことがありませんが、ただ純粋に色々なカルチャーが好きなZineコレクターです!!


--- 何の違和感もない経歴とストーリーですね。適度なオタク気質というか、、、ナチュラルソフトに編集してません?接していると感じるんですよ。変態的な気質を。
はははっ。元々コレクター癖が強くて、2014年頃から足繁くNew York Art Book Fairに通うようになっていました。その頃からアメリカに行くたびに友人から頼まれた分も含めてZineを大量に買うようになり、「仕入れなの?」と聞かれたり、ディスカウントがあったりと、バイヤー気取りなことをやっていました。こうした経験の中で、自分でお店をやってみたいと意識するようになっていきました。Zineを扱っているお店は都内には多いけど名古屋には少ないなと。無いからこそ必要だと、お店を出す経緯はそんな感じだったと思います。
--- 徐々に滲み出てきてますね!良い感じです。単純に桂井くんが考えるZineの魅力は?
Zineは気軽にアートを楽しめたり社会のあれやこれやの問題を知れること。自分が表現者側になることも気軽に出来ることだと思います。あとは、ハードカバーの本より安いこと!(Zineもプレ値がつくと高くなることもありますが…これを先買いすることも楽しい!)
--- こちらから見ると普通じゃないZineへの愛情を感じるんだけど、日常生活に支障はないのかな(笑)。
サラリーマンをやめてお店をやっちゃうぐらい好きですし、その状態が日常なので全然ナチュラル&ニュートラルに生きています。自分がコレクションしたいものを仕入れているのでラインナップに偏りが出てしまっていますが、それも含めてこのお店が自分の好きを体現しています。


--- 精神的スーパーサイヤ人のような感覚なのか!少し話を広げていきますね。Zineと店の関係、Zineと街の関係をどのように考えているの?どのような方向が理想?
今年の8月で5周年を迎えますが昨年ぐらいからZineを作りたいというお客様の来店が圧倒的に増えました。Zineの認知度が高くなっているのを感じますね。お客様同士の交流とかは見ていて最高に気持ちいいので、そういった交流の場となってくれたら嬉しいです。その中で課題として、Zineを探しに来てくれた方に、自分の好きをどれだけ伝えられるか。ただのZineブームで終わらせないよう、定着させていくことが課題だと思っています。あとは個人的な課題というか根本的な問題になりますが、、、なぜかよく聞かれるのではっきりとここでお答えしますが、Zine屋だけでは食っていけない。生活をするために、Manilaを守るために、週2日看護師としても働いています。二足の草鞋をそろそろ一本化していけるように頑張るのみです。
--- はっきり答えちゃった!若者に夢・希望を与えていきましょうよ(笑)。でも、名古屋で「Manila Books&Gift」の異色な存在感は着実に増している気がする。
サンフランシスコに行くと、だいたいどこの書店にもZineの売り場があって、回る先々で同じアーティストの本を見つけると、今この人がトレンドなんだなってことがわかったり。最近は行けて無いけど数年前ならBlack Lives Matter関連のZineが多くあったり、大げさかもしれないけどZineを通して街が見える。ちょっとしたシティガイドみたいな側面もあると思います。早く名古屋でその感覚をより感じたいですね。大変嬉しいことに、最近では県外や海外からの来店が増えたことで、観光を含め名古屋のカルチャーを伝えられる機会が増えました。名古屋は色々なカルチャーがある魅力的な街なので、それをZineで表現してくれる人が増えたら店主冥利に尽きます。


--- このコンテンツ(偏愛的・ローカルシティガイド)も同じような気持ちだよ。最近のZineムーブメントとファッションとの相性はどうかな?
ファッションが好きな方にはアートにも関心が高い方が多いですよね。ブランドによっては昔からルックブックやシーズンイメージなどをZineとして出していたり、ファッションの世界では表現ツールとして定着していたようにと思います。zuccaが出すZineとか面白かったですよね。今でもComme des Garçonsから届く紙媒体でのシーズンイメージは楽しみにしていますし、いまだに出し続けているのもすごいことだと思います。ただ、最近はWebやSNSの普及により、若い世代には画面上でファッションを見ることが定着しているため、逆に紙媒体での表現が新鮮に映っているのではないでしょうか。情報が溢れている時代に、紙媒体のZineを楽しそうに深掘りしてる若いお客さんを見るたびに幸せな気持ちになります。お客さんとの会話の中でも、昔のファッション誌を集めている方や、Zineの中に出てくる昔のストリートフォトのファッションを参考にされる方もいるので、この時代にあえて紙媒体で残すことには意味があるのではと思います。


--- ありがとうございました。そろそろ締めに入りたいと思いますが、今後やってみたいこと、展開などがあれば教えてください。お決まりなんで(笑)。
今回のPOP-UPテーマでもありますが、“架空の印刷工場”を現実化していくこと。Manila Pressとして何度か出版は行ってきましたが、より拡大化していくことが目標です。あとは展示にも力を入れていきたい。お店を5年やっていると、ただのZineコレクターが集めていたZineの中にも登場するようなアーティストと話せたり、「何かやりたいですね!」と夢のようなお話をする機会もあったりするのです。現在、Manilaは小さなお店で、ギャラリーを併設しているわけではないので、夢のような話で終わってしまうこともあったけど、次のステップとして今後は現実化していきたいですね。そこには安井さんのお力もお借りして(笑)先程もお話しした通り、Manilaだけで食っていけるようになることが今後の目標です。
--- Zineって何だか難しそう?そんなイメージを気持ちよく裏切ってくれる「Manila Books&Gift」。ますますZineに興味津々で更なる仕上がりを感じています。今日はお忙しいところ時間を頂いてありがとうございました。今後の活躍を楽しみにしています。

Manila Books&Gift
〒460-0007 愛知県名古屋市中区新栄2丁目2-19 新栄グリーンハイツ106
電話:052-854-6119
IG:manilabookgift
--- おまけ。Zineを扱うにあたってのManila Books&Gift的注意点。
①海外のZineを輸入する際のトラブル多々発生。
悪意があるのかどうかわからないのですが、実際に届いた数が足りないことがよくあります。注文したものがないと勝手に違うものが送られてきたり、書籍を送る際の梱包が雑なところからは折れ曲がったものが届いて必死にアイロンをかけることも。とにかく届くまでがスリリングな世界です。
②何の店なのかイマイチよくわかってもらえない。
お店の前を通る方に「何のお店?」とよく聞かれます。Zineと言っても当然伝わらないことが多いので、「本屋です」「小冊子のお店です」などとお答えするのですが、これを「Zineの専門店です」と言って伝わるような時代が来るように浸透させていきたいです。以前働いていた場所で何をやっているのか問われた時に「特殊な本屋」としか伝えられず、いかがわしい商売をやっていると噂が広まってしまったことも、、、。

UNEVEN HUB STORE / Nagoya
「想像を超える、人とモノのハブ体験」をテーマに、広々としたワンフロア(230坪/760㎡)を展開。周回可能な放射状レイアウトにて構成された小規模ショッピングモールのような発信拠点です。愛知県名古屋市西区天塚町という穏やかなロケーションにて、ファッションのセレクトショップ「UNEVEN HUB STORE」を起点とし、デザインと生活雑貨を取り扱う「Dhal Homes」、スペシャリティーコーヒーと焼き菓子を提供する「awai」、コンテンポラリーなレディースファッションを取り扱う「LILLT」、大小二つのイベントスペースとキッチンスペースを集約。多種多様な人やモノ、コンテンツが重なり合い、刺激し合うことで、想像を超えた体験を提供いたします。