「おすすめの面白いお店」と聞くと、どうしても似たような顔ぶれが並びがち。けれど、街をよくよく見渡せば、もっと静かに、もっと深く、店主の“好き”という熱量がにじみ出た場所が存在します。そんな人やそれにまつわる場所を、しがらみ抜きにして紹介していくのが、この偏愛的ローカルシティガイド。類は友を呼ぶというけれど、その独特なスタンスの向こうに、今どのような風景が見えているのか?カジュアルなインタビュー形式でコミュニケーションする不定期企画。
その人ならではの“好き”がにじみ出た場所って、やっぱり面白い!!
「Panorama Store」
名古屋・大須の古着店「Panorama Store」が、約5年ぶりに内装をリニューアル。ギャラリーのような洗練された以前の空間から、今回は色彩やディティールが際立つ、より“古着屋らしさ”を感じさせる空間へと変貌。そこにはどんな想いがあったのか?店主・大橋くんに、内装変更に込めた意図から、古着カルチャーの現在地、そしてこれからの名古屋シーンについて伺いました。


--- 突然の思いつきオファーを受けて頂いてありがとうございます。早速ですが「Panorama Store」の成り立ちから聞いても良いですか?
少し話すと長くなってしまうのですが、Panoramaの成り立ちは僕が2017年に短期アメリカ留学に行った所から始まります。2015年に自分のお店(Diorama)をスタートして、有難い事にすごく順調にお店を運営できていたのですが "どれだけ買い付けに行っても英語力が一定の所から上がらない" というジレンマに気づきました。それを早い段階で解決したくて3ヶ月間アメリカに住んだ事がキッカケです。
Panoramaは4人のアメリカの古着屋オーナーと提携しているかなり変わったスタイルのお店なのですが、この短期留学をキッカケにビジネスの関係からもう一歩深い関係になったのがスタート地点かもしれません。もちろんその当時はこういうことをしようと思っていた訳ではなく、LAで僕がカッコいいと思える人たちともっと仲良くなりたい!というシンプルな気持ちでお店に遊びに行ったり、お店を手伝ったりしていました。僕はDioramaというお店を作る前からPanoramaという2店舗目を出すことを何となく決めていて、そのアメリカで日々を過ごす中でこのお店のアイデアを思いつき "ヤバいこと思いついた!" とみんなに連絡した事を覚えています。
返答は "I'm down (やろう)" と "interesting (興味深い)" でした。笑
--- 当時、「次世代の編集型古着屋が出てきた!!」って驚いた記憶があります。とにかく複数のアイデンティティーを編集して一つの空間に収めるっていうアイデアは古着屋として斬新でした。お店の内装も古着屋らしくないクリーンな感じで、半歩先感あったよね。
Dioramaは"the古着屋さん"という店内なので全く違ったモノにしたいなと思っていました。アメリカの友達にも誇らしく思ってもらえるお店にしたかったので、他の古着屋さんには無いような店内にしたいと考えていました。ただそんなお店を作る為にどうすればいいのか当時の僕には知識も教養も無く、そんな時に話を聞いてくれたのがUNEVENの安井さんとASANOWORKSさんでした。


--- そんな流れから、なぜ今回の改装工事? 5年ぶりに内装を大きく変えた理由は?
誤解を恐れずに言えば"目標が変わったから"です。今思えば昔の僕はかなりイケイケで、開業2年で2店舗目の事を考えて4年も経たずしてお店をオープンしたんです。その時の"勢い"というか自分の"野心"みたいなモノがかなりお店の内装とマインドセットに反映されていたので、それを今の等身大の自分に合わせて作り直したいなと思った事が一番の理由です。
--- すごくストイックにいつも考えているよね(笑)。今の等身大に合わせたという具体的な部分は?
今までは白壁にグレーの床、ステンレスとオークだったのですが、今回はそこにコンセプトカラーを追加した事です。無機質な事が個性だったトレンドサイクルの終わりも感じていたので、何か違和感を取り入れたくてこのアイデアに着地しました。そこで今回の改装ではピンクをベースに何色か色が入っています。物量を増やす為に作って頂いた大きな島什器もアクセサリー棚にもこの色が反映されていて、すごく気に入っています。
--- ニュートラルからデコラティブに進む、はじめの一歩的な感じかな?僕たちの感覚もよく似ています。お客さんの反応どう?
めちゃくちゃ変わりましたね!と言ってもらえてとても嬉しいです。古着屋は少し雑多な方が古着屋らしいんですけど、"こんな古着屋があっても面白いよな"という気持ちでPanoramaを作りました。そんな僕らの拘りも込みでお店での買い物を楽しんでもらえたら本望です。商品量を増やしたことで、今まで表現しきれなかった部分に手が届くようになったと感じています。サイズ展開があるアイテムを並べて置けるようになったのもすごく大きいです。物量が増えた分、より多くの古着に触れてもらえたら嬉しいなと思いラインナップを選んでいます。


--- 話の流れ変わっちゃうけど、ファッションとカルチャーの視点から、この数年で感じた変化やムーブメントはある?名古屋・古着シーンの現在地は?
僕は古着の世界に16年ほどいるのですが、ここ数年は今までにない古着ブームだったと思います。今はそれが少しずつ収まって?いる気はしています。ブームはもちろん僕らにとっては追い風だったのですが、古着という日陰のカルチャーが一気に日の目を浴びたので、そういう意味では今までにあった旨みは少し減ってしまったのかなと思います。"古着を選ぶ"という事の特別性は昔より少なくなってしまったかなという印象です。名古屋の古着シーンもかなり変化しました。大手のお店さんの出店が増えたのに加えて大須叩き上げの後輩たちのお店も増えてきたので、かなりバリエーション豊かな街になってきたかなと思います。
--- マーケットの中で選択肢が増えたことは、お客様から見たらポジティブだよね。最近の若いお客さんたちを見ていて、どのように感じるの?
35歳の僕から見て10代や20代前半は未知なる世代になりました。笑 でも、わからないのが当然だと思っているので特別思う事は無いです。新しいカルチャーは常に若者が創るべきだと思うので、少し離れた所から勉強させてもらっています。きっと僕らが若い時に年上の方々もそう思っていたと思うので。古着に関して言えば知識や情報を年上の方々にたくさん教えて頂いたので、自分の価値観を押し付ける事なく伝えていけたらいいなと思っています。直接伝えるのは難しかったりするので、スタッフを通して伝えていく事を意識しています。
--- 的確!!100点の返答だと思います 笑。


--- 最近、ブログを復活させたんだよね。オールドメディア感のあるブログを再開した心境は?
古着のブームで古着を買う人の数はかなり増えたのですが、古着を深掘りしている人の割合は減ってしまったのかなと思っています。ネット上に古着のコンテンツは沢山あるんですけど、そこに教材のような物ってあまり無いんです。なんでないんだろう?って考えた時に、世の中のほとんどの人はそんなマニアックな情報を欲していないからだと思うんです。それをネットの大海原に放ったとしてもきっとアクセス数は稼げないとも思います。でも古着屋の僕はやっぱり古着のディープゾーンにこそ面白さがあると思っているので、それを伝えたくてブログを再開しました。インスタグラムやnoteという手段もあったのですが、良くも悪くも数値化されてしまう世界から距離を置きたくてクローズドなプラットフォームを選びました。本当に興味がある人の為になるコンテンツを目標にしたのが今回のブログです。なので大衆に向ける気はほとんどなくて、少数で良いので本当の古着好きが生まれるきっかけになればと思っています。
BLOG:vintagesharpobjects.blogspot.com

--- 確かにディープゾーンは大切にしたい!!そのようなニッチなコミュニティーに向けての情報発信も重要な気がする。さらに盛り上がっていく為の新たな展開などがあれば教えてください。
今は大きくこれをやろうという事は考えていないんですけど、2年ほど前から自主企画で少しずつやっている "BROKEN JUNK JAPAN" という日本の古物のイベントを8月にPanorama Storeで開催する予定です。僕の仕事は古いモノを触り、それを選定する事なので、古着だけでなくもっと大きなスケールで古い物の面白さを伝えていけたらなと思っています。古い物と向き合う人生ってめちゃくちゃ無駄が多いんです。でもその無駄こそが人生を豊かにしてくれると思っています。無駄を追求した先でしか得られない快感を沢山の人に味わってもらえるようにこれからも日々頑張っていきます。
--- 誰かの“好き”がにじみ出た場所には、不思議と人が集まり、静かに熱を帯びていく。Panorama Storeもまた、そんな場所のひとつです。ぜひ、皆様もお店に足を運んでみてください。お忙しいところ取材対応ありがとうございました。感謝!!

Panorama Store
〒460-0011 愛知県名古屋市中区大須2丁目18-2 第一サカイビル 2階
営業時間:13:00〜19:00
電話:052-223-9090
IG:panorama_store_jp

UNEVEN HUB STORE / Nagoya
「想像を超える、人とモノのハブ体験」をテーマに、広々としたワンフロア(230坪/760㎡)を展開。周回可能な放射状レイアウトにて構成された小規模ショッピングモールのような発信拠点です。愛知県名古屋市西区天塚町という穏やかなロケーションにて、ファッションのセレクトショップ「UNEVEN HUB STORE」を起点とし、デザインと生活雑貨を取り扱う「Dhal Homes」、スペシャリティーコーヒーと焼き菓子を提供する「awai」、コンテンポラリーなレディースファッションを取り扱う「LILLT」、大小二つのイベントスペースとキッチンスペースを集約。多種多様な人やモノ、コンテンツが重なり合い、刺激し合うことで、想像を超えた体験を提供いたします。