自らの手でライ麦を育て、新たな作品づくりに挑戦し続ける造形作家・仲宗根知子さんへのインタビュー。
自然のリズムを肌で感じながら作品づくりを続ける造形作家・仲宗根知子さん。「自分もまた自然の一部であり、その循環の中に生かされている」という言葉をキーワードに、制作にまつわるエピソードやご自身についてのお話を伺いました。
__平面だったものが立体へと変わった瞬間の驚きと喜びが十数年経っても忘れられない
ヒンメリを初めて見た時、その構造の美しさにとても強く惹かれました。藁だけで構築するシンプルな素材と工程にもかかわらず、とても奥深く驚くほど多様な形を生み出せるところに魅了されたのです。最初に作ったのは基本形の正八面体。当初は力加減が分からず、糸の結び方にも苦戦し、出来あがったものは藁の接点がずれ形は歪んでいました。それでも、平面だったものが立体へと変わった瞬間の驚きと感動は、今でも忘れられません。その夜、灯りに照らされて回転する影を、時間を忘れてずっと眺めていたのを、昨日のことのように覚えています。出会ってから十数年が経ちますが、今もなお新しい発見があり、無限の可能性を感じています。
__ライ麦を育てる過程を通じて、自分もまた自然の一部であり、その循環の中に生かされていると実感する
私は米農家の家に生まれ、幼い頃から農作業が身近でした。ヒンメリを知った頃、祖父母が残してくれた畑で無農薬無肥料の野菜を育てていました。「材料がなければ自分で育てよう」と思い、まず麦の種を蒔いたのです。「育てるプロセスを取り入れよう」と意識したわけではなく、麦を栽培し制作する流れが自然に始まりました。ライ麦を育てていると、四季の移ろいや自然のリズムを直に体感します。種を蒔き、生長を見守り、収穫し、作品へとつなぐ流れは、まさに制作そのもの。麦の茎には一本一本異なる表情があり、その個性を活かすことで、作品に自然の気配が宿るように思えます。育てる過程を通じて、自分もまた自然の一部であり、その循環の中に生かされていることを実感し、さらにそのつながりを大切に感じるようになりました。


__自然のリズムが作品の造形につながる
作品の造形は、自然の中にある規則的なパターンやリズムに触れることでアイデアが浮かんできます。植物の形や生長のプロセス、昆虫のフォルムや光と影の動きなど、さまざまな要素が交わり結びついて形になるイメージです。また、目の錯覚や偶然のズレ、予期しない結果が新たな発想につながることも。作品作りでは、素材の特性を尊重し、自然とのつながりを形にすることを意識しています。無理に形を作るのではなく、素材が持つ美しさとシンプルな構造の中にある静謐さ、重力に反しているかのような不思議さを落とし込むように心がけています。そして、常に好奇心と探究心を持ち、形だけでなくそこに宿る生命力が鑑賞者に伝わる事も大切にしています。


__自分が何に心を動かされるのかを大切にしながら、自然とどう関わり何を伝えていくのかを模索している
好きなアーティストは、アンディ・ゴールズワージー、アレキサンダー・カルダー、テオ・ヤンセン、エッシャーです。それぞれの作品に共通する自然の力や動き、幾何学的な美しさに惹かれます。最近は、自然や植物、宇宙に関する書籍をよく読んでいて、そこから作品のインスピレーションを得ることも。植物の生長や繰り返されるパターンの美しさ、自然の循環に目を向けながら、頭に浮かんだ“見たい形”をどう作品に落とし込むか。素材の持つ力を生かした新しい表現を常に探り続けています。また、自分が何に心を動かされるのかを大切にしながら、自然とどう関わり何を伝えていくかを模索しています。
__日常に在る自然そのものの美しさや、その循環の中に感じるつながりを届けたい
ヒンメリを通して伝えたいのは、シンプルな形の中に広がる可能性と、自然そのものの美しさです。何気ない素材でありながら、組み合わせにより生まれる多様な形とそのバランスには、私たちが自然から学ぶべき調和や生命の循環といった深い知恵が宿っていると感じています。作品を通じて、日常の中で見落としてしまうような小さな美しさや、自然との深いつながりを再認識してもらえる瞬間を届けることができたら、とても嬉しく思います。

清々しく凛とした空気が宿っているのと同時に、緊張感も纏う仲宗根さんの作品。自然の中に身を置き、そのリズムを肌で感じているからこそ生み出せるものなのでしょう。本展覧会では、ご自身にとっても挑戦だという壁掛け作品を中心に20点以上の作品が並びます。ヒンメリが作りだす静謐な空気をぜひご体感ください。

Dhal Homes
私たちはデザインが日々の生活と人間との間を取り持つと考えます。世の中は進化し続け、一方で人間は進化に対応できることもあれば、できないこともあり、できてもしたくないこともある。Dhal Homesは、それらの問題を捉えて、衣食住の適切な関係を構築します。